アメリカECのVIPへのおもてなし方法

リワードマーケティング

アメリカでは「リワードマーケティング」と呼ばれる、いわゆる「報酬が還元される」サービスや広告が注目を集め続けているため、多くの企業がVIPの顧客を獲得するべくロイヤルティプログラムを利用しています。
最高の顧客VIPに特別なステータスを約束することで、顧客の獲得と維持の両方の結果をもたらすことを目的にしています。

Inkbox(インクボックス)の事例

カナダ トロントに拠点を置くInkboxは本物のような見た目なのにテンポラリー(一時的)なタトゥーのデザインとインクキットをオンラインで販売しています。インクキットは肌の上の層に特殊なフォーミュラを浸透させることで、オーガニックの成分が反応し、肌を黒/紺色に変色させます。インクはすべて自然な原料で作られており安全です。
伝統的なタトゥーは、真皮(dermis)まで浸透するため消えることはありません。それに対し、インクボックスは表皮(epidermis)にしか浸透しないため、肌のターンオーバー期間およそ2週間しか残りません。 2015年に設立され、すでにカナダ、アメリカそして日本で事業を展開する同社は、月に約60,000のタトゥーを150か国以上に出荷しています。
Inkboxは、タトゥーアーティスト、グラフィックデザイナー、高級アーティストなど、デザインの購入時に利益の一部を受け取るプロからデザインを調達しています。ミレニアム世代を意識したインフルエンサーマーケティングも積極的に行なっています。
Inkboxのリワードマーケティングは顧客を「Chapter-本でいう章」別の階層に分けて、本を読み進めるようにChapterを進めていくことで特別なデザインが購入できる権利をVIPだけが獲得できるようになります。(現時点で日本ではこのプログラムはまだないようです。)

Sephora(セフォラ )の事例

階層はロイヤルティプログラムが目的の行動を動機付ける最も効果的な方法の1つです。顧客を個別のグループに分類することにより、各層を使用して買い物客に次のマイルストーンに到達できるかどうかを確認できます。
注文数、獲得したロイヤリティポイント、または使用した合計金額に基づいて階層を設定できます。階層型プログラムは、上位層に最小限のメンバー(通常は約10%)がいる場合に効果的です。
最も忠実な顧客に、他の人ができなかった何かを達成したように感じてもらい、さらに他の顧客が上位層にたどり着く努力をするように促します。
セフォラは買い物客を3つのグループ(Beauty Insider、VIB、およびVIBルージュ)に効果的に分割しました。Sephoraの基本層はInsiderと呼ばれ、サインアップした人なら誰でも無料です。
ただし、年間350ドル以上を購入する顧客はVIBメンバーとして登録され、年間1,000ドル以上を購入する顧客はVIBルージュと見なされます。
この上層グループへの参加に伴う社会的地位は、最も効果的なモチベーションにつながります。 TwitterなどのSNSで#VIB Rougeステータスを自慢する人の数多さがそのことを物語っています。

ブランドと顧客ベースに合ったリワード(おもてなし・報酬)

セフォラ ブランドは、名声、品質、豪華さ、これらすべてを認められています。そしてその製品が顧客への報酬として提供されるものに反映されています。
VIB Rougeメンバーには、国内送料無料、ポイント獲得率のup、独占的な製品やイベント、Sephora Beauty Studioへのアクセス、製品や販売への早期アクセスなどの報酬を獲得する機会が与えられます。
セフォラの顧客は最新の美容製品に情熱を傾けており、他の人には手に入らないものを求めています。これらの特典はVIBプログラムへ投資するお客様にとって十分な価値があります。
ポイントを割引に使用する代わりに、Beauty Insiderメンバーはポイントを使用して、Rewards Bazaar(https://www.sephora.com/rewards)で美容製品とポイントを交換できます。
これは割引やクーポンは高級ブランドのイメージにそぐわないというセフォラ ブランドの意識のあらわれとも言えるでしょう。

割引やクーポンではない報酬

100ポイントからサンプルサイズ製品との引き換えができる機会から、VIPのためのサービスの提供まで様々なリワードが用意されて定期的に更新されてます。
例えば5,000ポイントのコースは「Squad Goals Makeup Class」と呼ばれる、メイクやルックスに関するプロのレッスンを提供します。 この報酬を選択したBeauty Insiderメンバーは、クラスに10人の友人を連れて行くことさえできます。
さらに上の20,000ポイントのコースは、Make Up Foreverのニューヨークアカデミーで開催される2日間のワークショップです。
ブランドのプロのアーティストがイベントでクラスを教え、昼食はケータリングされ、無料の製品が参加者に配布されます。また有名人とセフォラ の店舗で会えるイベント参加コースなども人気です。

圧倒的なアマゾンプライムからの結論

こういったロイヤルティプログラムを提供しているEC企業はたくさんあり一部のVIP顧客はそのサービスを享受していますが、ほとんどの顧客は実際のところポイントが貯まっていても使い忘れていたり、サインアップのために情報提供を求められる煩わしさのわりに、そのサービスを享受できていないといった問題点が多く見られています。
このVIPサービスで最も成功している例はAmazonプライム会員だと言われています。現にプライムサービスを受けるためにはアメリカでは年会費$119も支払う必要があるのに、現在米国では1億100万人の加入者がいます。(Consumer Intelligence Research Partners(CIRP)は調査)
Amazonが圧倒的に成功しているサービスはポイント還元でもなく、階層性でもないところに注目できます。
会費を取ることで顧客の流出を防ぎ、顧客にとって便利で、他企業が真似できない期待を超えるサービスを提供し続けることをリワードとして実現していると言えるでしょう。プライム会員はAmazonのサイトから毎年平均1,400ドルの製品を購入しますが、プライム以外の通常の顧客はたったの600ドルしか使いません。
しかしJPMorganによる分析では、プライム会員すべての特典を組み合わせた場合、その価値は年間785ドル相当に値します。これは、Primeの年間サブスクリプション(119ドル)の実際のコストの約6.5倍です。

ロイヤルティプログラムを追求すると、VIP顧客が会費を払ってでも値打ちがあるリワードサービスを、企業が提供できるかどうかが顧客獲得の差に影響すると考えられます。

Mitsutoshi Murata

株式会社プリンシプル 代表取締役 船井総合研究所WEBコンサルティングチーム コンサルタント、チームリーダーを経て、2013年、株式会社プリンシプルを設立。メンズの総合セレクトショップ フリースピリッツ立上げ。2014年より越境EC事業を開始し、2016年、越境ECが全体の売上構成比20%に成長